岡山大学医学部の取り組み
医療は、大病院だけで完結するものではなく、一人ひとりの患者さんの背景には退院後の地域での生活があります。患者さんとご家族に寄り添い、地域に根ざした医療を提供できる人材を育てるため、岡山大学では入学後、早期から地域医療の現場で実習や講義を行っています。
「地域で学ぶ、地域で育つ」をキーワードに「患者さんをトータルに診る」ことのできる医師の育成を目指した教育を行っています。
本学では、学年を追うごとに講義・実習を組み合わせ、知識・技能・態度を磨くカリキュラムを組んでいます。また、1年生の夏という早い時期から地域実習で現場を体験できるようになっています。
学びのメリット
医師を志す皆さんへ 地域医療の学びのメリット
1. 医師の原点を学ぶ
地域の病院だからこそ、住民の暮らしや人生を支える医療を多くの研修・実習を通して学ぶことができます。
2. 医師としての総合的な能力を身につける
地域医療を支える医師の役割としては、幅広い臨床能力をもつ総合医であることや、保険・福祉・介護に関する理解と活用、更には行政や地域住民と一体となった医療の展開(地域包括ケア)など多岐にわたります。地域医療人材育成講座では、地域立脚型教育システムの構築と実践を推進し、いろいろな診療科の知識や技術を学んだり、介護や福祉など様々な職種の関係者との連携を図るなど、総合医としての能力を高めることができます。
地域医療の魅力
佐藤勝教授の語る地域医療の魅力
医療を核とした「地域包括ケア」
近年、高齢化率の上昇により、複数の疾患を持つ人が増え、さらに介護福祉の問題を抱えることも多くなり、単に疾患の治療だけでなく、家庭や職場、地域まで包含した幅広い医療が求められるようになってきました。それはまさに地域医療そのものであり、それを支える医師の役割としては、幅広い臨床能力をもつ総合医であることや、保健、福祉、介護に関する理解と活用、更には行政や地域住民と一体となった医療の展開(地域包括ケア)など多岐にわたります。
私はこの地域包括ケアに長年取り組み、その実践により、予防医学の充実、住民サービスの効果的提供、ADLやQOLの向上、教育への好影響などの効果を認め、その結地域の活性化やまちづくりに繋がり地域医療の素晴らしさを体験してきました。
地域医療では、医療を中心に色々な職種の方々(行政や保健、福祉、介護、教育、文化などのスタッフ)が連携し協力しながら、地域全体で医療を含めた住民サービスを提供することで、地域全体で住民一人ひとりが質の高い生活を送れるよう活動しています(地域包括ケア)。 横の連携を可能にするのはスタッフ同士が常に連絡を取りあい協力し合う体制や信頼関係を築いているから。しかもお互いの役割や守備範囲を良く理解しているからこそ。従来の縦割り体制では出来なかった地域包括ケアを実践する基地としての「地域医療機関」は機能しているのです。
私は、今まで全力で患者さんと接し、住民との間にも信頼関係を築いてきました。築き上げた信頼関係は次のステップを生みます。教育委員会やPTAと連携すれば、保護者や子どもたちへの健康管理や病気予防に取り組めます。地域のイベントを通じて健康の大切さを伝えることも出来ます。医療をキーワードに地域全体に関わっていくと、これが地域の活性化に発展していくのです。
医療は色々な可能性を秘めています。
医療を通じてまちづくりに貢献できるのも地域医療の一つの形なのです。
18歳の時の熱い想いが地域医療を支えています
地域医療の現場では医師は基本的に少数。自分一人で大丈夫なのか不安に思うのも当然です。ましてや専門分野以外の診察は出来れば避けて通りたいでしょう。が、それでは地域医療は成り立ちません。見方を変えれば、専門外であっても総合医として出来ることはたくさんあるのです。
例えば、深夜に妊婦さんが腹痛を訴えて来院したとしましょう。私は産婦人科の専門ではありませんが、一通りの検査や診察は出来ます。かかりつけの病院に連絡を取り主治医に症状を伝え指示を仰ぐことも可能です。専門医に紹介状を書くことも出来ます。
専門医と同レベルの対応は出来なくても、妊婦さんは安心し感謝して帰路につくでしょう。総合医とはそうやって地域住民との信頼関係を培っていきます。
多くの医学生は、「目の前で困っている人の力になりたい」という純粋な気持ちで医師への道を選んだのではないかと思います。このような日常こそ、18歳の時に描いていた医師像の原点そのものではないでしょうか。
総合医としての経験が次のステップに活きてくる
本来医療に地域格差があってはいけないと私は常々主張してきました。過疎地の住民も大都市と同じ医療を受ける権利があります。哲西町診療所には大病院に劣らない医療設備を整え、いつでもどんな症状でも断ることなく診療しています。 ここに私は毎年多くの若い医師、医学生、看護学生の研修を受け入れてきました。訪れる皆さん全員が、イメージしていた診療所との違いに驚きます。現場を体験してもらい、地域医療の素晴らしさ、やりがい、そしてまちづくりにもかかわる面白さや楽しさ、醍醐味を感じ、大半が「将来診療所で働いてみたい」と言ってくれます。彼らがここでの見聞を後進にも伝え、一人でも多くの優秀な医師が地域医療に関心を持ってくれることを期待しています。
私の同僚の中には大学に戻り専門医の道を追及したり研究に没頭する人もたくさんいます。彼らは「地域現場を知り総合的な感覚を身に付け、地域住民、行政、医療スタッフの気持ちを知っているということは、専門分野に進む上で必須な要素。地域医療は医師として、人間としての幅を広げてくれた」と口をそろえて語ります。
地域医療が崩壊するなか、総合医のニーズは今後ますます高まっていくでしょう。
皆さん地域医療の素晴らしさ、楽しさ、魅力、やり甲斐を分かち合いましょう。
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
地域医療人材育成講座
佐藤 勝
地域医療実習 協力施設
実習協力施設位置図(二次保健医療圏)
岡山県
広島県
広島 | 国民健康保険組合 北広島町雄鹿原診療所 | |
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尾三 | 日立造船健康保険組合 因島総合病院 | |
福山・府中 | 社会医療法人社団陽正会 寺岡記念病院 | 社会医療法人社団陽正会 神石高原町立病院 |
医療法人紫苑会 藤井病院 | ||
備北 | 総合病院 庄原赤十字病院 |
兵庫県
北播磨 | 西脇市立西脇病院 | |
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中播磨 | 医療法人松藤会 入江病院 | |
西播磨 | 医療法人伯鳳会 赤穂中央病院 | 赤穂市民病院 |
但馬 | 公立豊岡病院組合立 朝来医療センター | 公立豊岡病院組合立 豊岡病院 |
丹波 | 兵庫県立丹波医療センター | |
淡路 | 兵庫県立淡路医療センター |